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ディプロマミル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ディプロマミル: diploma mill、証書工場の意)あるいはディグリーミル: degree mill、学位工場の意)とは、実際に就学せずとも金銭と引き換えに高等教育の「学位」を授与する(と称する)機関・組織・団体・非認定大学のことであり、その活動は学位商法とも呼ばれる。転じて、アメリカスラングで、入学卒業が非常に容易な大学を皮肉をこめてこう呼ぶ。なお、このような転用がみられるのは、アメリカの大学では、入学は容易だが卒業認定は厳格なのが普通であるためである。

最近では社会問題になるほど認知され、これらの機関・組織・団体の社会的影響と大学のあり方が、教育学者や社会学者による研究テーマとなっている。

目次

概要

ディプロマミルは、公式の認定団体から認定されていないところがほとんどであり、学歴詐称まがいの行為を誘発するものとしてアメリカでは大きな社会問題となっている。日本国内においても、ディプロマミルにより授与された「学位」は正式なものとしては見なされない傾向にある。このため、後述するような法的問題が生ずる可能性もある。

「公式ウェブサイト」を持つところもあるが、教育機関(日本でいう「学校」)とは認められていないため、トップレベルドメイン.eduではなく.org.netになっているのが特徴である(多くが“アメリカ所在”を自称する)。なお、.comは商用を表すcommercialの省略なので、さすがに使用する団体はない。

ディプロマミルから「学位」を授与される人物は、肩書きに箔を付けようとする新興宗教の教祖や、「天才」を自称する“街の発明家”のような人物、疑似科学者、あるいは商取引上、権威があるように見られたいビジネス関係者などが多いとされるが、ときには正当な経歴・実績をもつ学術研究者大学教授なども存在することがある。

また、これらの「学位」は本人が金銭で買ったものであると自覚している者もあれば、本当に正規の学位を授与されたと信じている者もあり、悪意を持って学位を詐称しているのかそうでないのかの見分けが難しい場合がある。

さらに「Creighton UniversityClayton University」 (いずれも日本語表記はクレイトン大学)、「ハミルトン・カレッジハミルトン大学」、「ハワイ大学ホノルル大学」のように誤認しやすい名称が付けられている場合もあり、注意が必要である。

ディプロマミルにより学位を取得(購入)した著名人は多いが、それをジョーク(シャレ)として公表する人物もいれば、正規の学位のようにプロフィールに記載する者、さらには公表後にプロフィールから削除する者もいる(後述)。

なお、博士号が学術能力の証明として授与されるのに対し、名誉博士号は社会的な功績に対する顕彰を目的とするため、ディプロマミルの中には含められない。

日本におけるディプロマミル

定義

ディプロマミルは国内でも問題視されており、文部科学省は「国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議」(第3回、2003年11月28日)でこの問題を取り扱っている。この会議の「国際的な大学の質保証作業部会」では米国CHEA(Commission for Higher Education Accreditation、高等教育保証委員会)のディプロマミルの指標を引用しており、その指標は、以下のとおりである。

  • 学位が金で買える
  • その証拠がないのにアクレディテーションを受けているような言及がある
  • 認定をしているアクレディテーション団体も信用出来ない
  • 連邦や州の設置許可を受けていない
  • 学生の出席要件が(あれば)小さい/学生の単位取得要件となる課業量が少ない
  • 学位取得までの期間が短すぎる
  • 経験や履歴書だけで学位が取れる/逆に正統な教育を行うにしては経費が安い
  • キャンパスの住所が示されていない=私書箱しかない、事務所がビルの一室だったりする
  • 教員の名前や肩書きが公表されていない
  • 有名大学に似せた名前をつけている
  • その証拠がないのに出版物があるような言及がある

この作業部会では、高等教育の品質維持及び消費者保護の観点から対策が必要であると結論付けており、その対策として、各国の大学等の位置付けやその学位等の国際的通用性に関する、大学、学習者、雇用主等社会一般が活用できる信頼性の高い情報の収集・提供のための国際的なネットワークを整備することが必要であるとしている。

現状

文部科学省は2007年7月に、ディプロマミルと疑われる博士号を国内または海外で取得して、その学位で日本国内で大学教員の採用などに悪用されている実態を把握するために、国公私立大を対象に全国調査に乗り出した。その後日本で2004~2006年度で全国4大学に4人、「真正な学位と紛らわしい呼称」によって採用・昇進した教員がいたことを2007年12月27日発表した[1]。また同調査結果によると、そうした呼称が大学の冊子やホームページで表示されていた事例が、大学は42校43人、短大は4校5人、総計46校で48人の大学教員についてあったことが明らかになった。

なお、この調査では2004年度-2006年度に採用・昇進した教員のみを調査対象としているが、ディプロマミルを研究する小島茂・静岡県立大学大学院教授によれば、日本国内の大学・短大の全教員のうち出所が疑わしい学位を元に採用された者は数十人にのぼると指摘している[2]

背景

アメリカのディプロマミルの存在は数十年前から知られていたが、日本では大学のブランドを重視するため、アメリカの無名の大学の学位を貰ったところで使い道が無く、日本人研究者や大学教官・教員が利用することは稀だった。

それが昨今話題となるのは、大学院が増加していることに関連がある。原則として、博士課程を担当する教官・教員は博士号を持つことが条件とされる(Dマル合など)。しかし、中には過去に博士課程が存在しなかった分野もあり、中堅の教官・教員で研究実績があっても、博士号を持たない者も少なからず存在する。このような教官・教員に対しては、大学側から博士号を取得するように要請するケースもあり、事実、出身大学で論文博士を取得する例も見られる。

また、日本の一般社会では、日本の大学院から認定される博士号より海外のそれを格上と見なす者も多い。これらの状況も、昨今のディプロマミル問題の背景のひとつと考えられる。

さらに、大学院重点化計画やポスドク1万人計画などにより、大量の博士号ならびに修士号取得者が生み出され、博士号取得後における大学や研究機関における研究職への就職が著しく困難になっている。こうしたなかで、国内の大学院はすべて文科省の認可を受けているとはいえ、将来日本の大学院が安易に博士号を濫発するようになれば、博士号という学位の質の低下を招き、実質的にディプロマミル化していくという懸念もある。

ディプロマミルと関係がある著名人

ジョークだと主張している人物

  • 6代目三遊亭圓楽 - 真打ち昇進後にアメリカンM&N大学より「哲学・理学博士」の認定書を得た。もっとも、正式の学位でないことは自身も認めており、プロフィールでも、ディプロマ・ミルによる授与(購入)であることを明記している[3]。これは、青山学院大学に在学している際に作成した卒業論文を知人の翻訳家に英訳してもらい、提出することで得たものである。
  • 吉村作治 - 早稲田大学より博士号(工学)を取得しているが、それ以前にアメリカのパシフィック・ウエスタン大学より「考古学博士」号を(本人曰くジョークとして)購入している。現在の公式プロフィールには正規の学位のみが記載されており、考古学博士号に関する記述はない[4]
  • 志水一夫 - 通信販売で学位や称号を買うのが趣味であり、多くの博士号や聖職者の称号を保有していた。ただし、公の肩書や学位としてそれらを用いたことは一度も無い。当人も理解した上で「取得」していた、一種のジョークである。

公表後にプロフィールから削除した人物

  • 原田実 - かつてアメリカのパシフィック・ウエスタン大学より「歴史学博士」号を授与され、それを肩書きとして複数の雑誌に論文を発表していた。現在は著書の経歴やweb上のプロフィールなどに「博士号取得」を記載していない[9]
  • 佐藤富雄 - 「ドクター佐藤」「生き方健康学者」を自称し、多数の著書を発表。かつては無認可の米国Union大学(宗教系大学)から取得したとする医学博士号・理学博士号の保持を主張していたが、現在はプロフィールに掲載していない[10]。さらに、彼はパテント大学MBAスクールという、根拠のない学位を授与する無認可大学を経営した過去を持つ。

プロフィールへの掲載を続けている人物

  • 臼井由妃 - 健康器具を販売する会社を経営する一方で、経営コンサルタントとして著書を発表し、「ドクターユキ」を自称している。ハワイアンカレッジより「名誉学術博士号」を取得したと主張しているが、同大学はアメリカパテント大学 (Patent University of America) の別名で、日本関連のディプロマミルである。また、「健康医科学博士号」「経営管理学修士」「理学博士号」取得済みを主張しているが、どこの大学から学位を授与されたかは明らかにしていない[15]
  • 村上一男 - 医療系専門学校専修学校を中心とする村上学園グループの理事長を務める。米国フロリダ基督教大学にて医学博士を取得した旨を主張している[17]が、ディプロマミルであると指摘されている[18]

その他

  • 横田哲治 - 名誉医学博士(イオンド大学)、名誉哲学博士(聖パウロ国際大学院大学)を取得。約500万円で名誉学位を購入したことが週刊誌で報道された。
  • 福永法源 - ハワイホノルル大学より地球環境哲学博士号の学位を、パシフィック・ウエスタン大学より芸術学士号・哲学博士号を取得。著書や講演会においては、生態哲学博士と自称していた。


日本における法的問題

ディプロマミルの発行した学位を使用していた場合、軽犯罪法第1条15項(称号詐称の罪)で処罰される可能性が弁護士によって指摘されている[19]

また、学校教育法は第135条で、文部科学省若しくは地方公共団体の認可を受けていない機関や各種学校学校大学院を名乗る事を禁止しており(これは一条校のみの権利)、設置者が日本人で日本国内にある機関の場合、この規定に抵触する疑いがある。その場合同法第146条では10万円以下の罰金を科すと規定されている。

脚注

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関連項目

外部リンク