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マスメディア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

マスメディア(Mass Media)は、新聞社出版社放送局など特定少数の発信者から、一方的かつ不特定多数の受け手へ向けての情報伝達手段となる新聞雑誌ラジオ放送テレビ放送などのメディア(媒体)である。マスメディアにより実現される情報の伝達(コミュニケーション)が「マスコミュニケーション」である。

日本では「マスコミュニケーション」を「マスコミ」と略した上で、マスメディアそのものを指す用法が定着している[1]。 日本では「報道」と「ジャーナリズム」と「マスメディア」とが混同される事もある。

目次

概説

  • マス(mass)は大衆の意味だとされることが多いが、社会集団や大量などの意もある。世論を形成する。
  • 高い公共性が要求される。マスメディア業界(特に大手新聞社テレビ局)は多くの国民に迅速かつ正確な情報を伝える性格を持つからである。また、大手マスメディアはその公共性ゆえ、博物館におけるイベントやスポーツ大会の主催者、または協賛者になっている。

歴史

大量の受け手への、情報の同時発信を最初に可能にしたのは15世紀半ばのヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷の発明である。グーテンベルクは活版印刷術を使い、世界初の近代的な出版物であるグーテンベルク聖書を完成させた。1660年には世界最初の日刊紙「ライプツィヒ新聞」が創刊されて以降、ヨーロッパ各地で日刊新聞が創刊された。欧米や日本では、19世紀の産業革命による都市人口の増加と、初等教育の普及による識字率の上昇に伴い、書籍、新聞の大衆化が進んだ。

1895年には、マルコーニが電波による無線通信の実験に成功したことで、情報を電子的に複製し1ヶ所から同時に多方向へ通信することが可能になり、放送の原理が確立された。1920年に世界最初のラジオ局であるKDKAがアメリカ合衆国・ペンシルベニア州で開局した。1926年にはGEから独立した受信機メーカーRCAが、米三大ネットワークの一つ、NBCを設立、全米へのラジオ放送を開始した。このほか、イギリスでは1922年BBCの前身であるイギリス放送会社が設立された。

意義

情報を発信する側には、広告広報の媒体となるほか、社会的弱者を含む多様な立場の意見表明(いわゆるアドボカシー)の場としての機能がある。

情報の受け手には、社会の出来事を知る手段、映画やドラマ、スポーツの鑑賞を楽しむ娯楽の一つとなるほか、選挙など政治参加の場としての機能を持つ。広告を有用な情報として認識する場合は広告の受信手段としての役割もある。

経営

マスメディアの収入源には大きく分けて、情報の発信側から受け取る広告料と、受け手に課金する料金(受信料、購読料など)がある。新聞や雑誌はフリーペーパーを除いて双方に課金し、書籍は通常書籍代として受け手からのみ徴収する。

新聞や雑誌と異なり、放送は課金手段が様々ある。民間放送は広告料のみで運営する。公共放送の場合、BBCやNHKのように受信料のみで運営する局のほか、広告料と受信料の両方受け取る局、政府交付金を受ける局など、国によって収入源が異なる(公共放送の項参照)。衛星放送有線放送の場合、ペイ・パー・ビュー方式などで視聴者に課金する局もある。

ネットの発達と利用者の増加で、既存メディアは広告や情報の受信手段としての役割をネットと競合するようになり[2]、全体的なメディアの傾向として、収入は頭打ちか減少傾向にある[3][4]。アメリカの新聞社では減少傾向が顕著で、ニューヨーク・タイムズは巨額の赤字を出し、本社社屋の売却などのリストラを進めているほか、2009年には、クリスチャン・サイエンス・モニター、シアトル・ポスト・インテリジェンサー、ロッキーマウンテン・ニュースが経営難で日刊紙の発行を取りやめた。

日本のメディアは、メディア本体による収入のほか、所有不動産の賃貸も収入源としていることが多い(朝日新聞社朝日ビルディング中日新聞社中日ビル、最近ではTBSによる赤坂再開発)。

日本のマスメディアへの批判

  • 特定非営利活動法人ライフリンクは、『今の「いじめ自殺」の報道が、それに続く自殺を誘発している可能性を否定できない』として、2006年に報道の改善を要求している[5]。2009年11月に内閣府がまとめた自殺対策白書でも、硫化水素ガス自殺において、新聞・テレビにおける関連情報の露出と自殺者数の増加は比例したと結論付けている[6]
  • マスメディアは政治家や官僚、サラリーマン等の既得権益はしばしば批判を行うが、マスメディアの既得権益である記者クラブ新聞特殊指定については沈黙を守るか、見直しの動きについては自社メディアを使って露骨な反対を行う[7][8]
    • JBpressは、「日本のマスメディアは、もはや、既得権益にしがみ付く最も保守的な組織と化した」と指摘している[9]
  • フリージャーナリストの神林毅彦は「もし、米国で押し紙によって水増しされた発行部数が公になれば、即刻潰れるだろう」と指摘している[10]
  • 読売新聞によるアンケートでは新聞への信頼度は87%と極めて高い数字を示した[11]
  • その一方、内閣府所管の世論調査機関である中央調査社が2008年8月に行った調査[12]によれば、日本のマスメディアへの信頼度は自衛隊警察大企業教師などよりも低く、国会議員官僚よりは高かった[13]
  • マスメディアは総合批判型ではなく個別批判型に偏向している。例えば性犯罪などの教師の不祥事やいじめ自殺が起こった際の学校現場は集中砲火的に批判はするが、その背景にある教師の過労死寸前の勤務状態や日教組による締め付けや教師同士のいじめについてはほとんど報じられる事はない。また、「草食系男子」についても「男は弱くなった。」(中日新聞2011年1月13日付記事)などとけなす報道を繰り返す一方で、その背景にある行き過ぎた男女平等教育(ジェンダーフリー教育等)の問題については一切報じていなかった。
  • 在日米海軍司令部によれば、日本の記者の中には、駆逐艦空母の違いも分からない者が存在しているという[14]。また日本の記者は、政治家から金銭を貰って報道に便宜を図っているとの疑いがある。イギリスエコノミストは、日本の歴代の政権与党が、官房機密費からメディアの解説者やテレビ評論家に多額の資金を渡していることを報道している[15]
  • マスメディアは「脅しに屈しない」をモットーにしているが、2008年11月の厚生労働省への批判報道に対して経団連名誉会長兼トヨタ自動車相談役の奥田碩が「厚労省叩きは異常な話。正直言ってマスコミに報復してやろうかな。スポンサーを降りるとか」[16]と発言すると、日本民間放送連盟の会長である広瀬道貞(兼テレビ朝日相談役)は「出演者の中に感情にだけ訴える過激な発言もある。テレビの影響力の大きさから言えばある種の節度が必要かなという気もした」と脅しについては一切指摘をせず強者であるトヨタに屈服するような発言を行った[17][18]
  • 2010年9月に発生した尖閣諸島中国漁船衝突事件に抗議して東京・渋谷でおこなわれた2600人の規模のデモについて、多くの海外メディアが報じた一方、日本のメディアはほとんど報じなかった。デモを呼びかけた1人だった田母神俊雄は、「主だったメディアには直前にリリースした」「中国のデモは十数人規模でも日中で報じられるのに、日本でこれだけの人が集まったことが報じられないのはおかしい」と批判した[19]
  • 佐々木俊尚は、30人程度の参加者しかいない死刑制度反対デモの記事が、社会面に写真付きでデカデカと掲載されて書いた自分が驚いたことがあると語り[20]、日本のマスコミは勧善懲悪という対立軸しか持てず、そこから逸脱した行為に対しては思考停止に陥ると指摘している[21]
  • 布川事件で一旦有罪となり、再審で無罪が認められた男性は、取材に対して「逮捕されたときは極悪人で、無罪になったらヒーロー扱い」と語った。また、彼は記者会見で冤罪の可能性を報じなかったマスメディアを批判したが、その部分はカットされて一切報じられなかったという[22]
  • 日本のマスメディアは、Who are you ?捏造報道のように、単なる冗談の類を、一切の確認を取らずに本当のこととして流し、しかもその後に虚偽が分かっても訂正すらしない場合がある。被害を受けた森喜朗は、内閣退陣後もマスコミのあり方に疑問を呈した。

主なマスメディア

以下、現代におけるマスメディアを媒体別に区分する。

電波を媒体とするマスメディア

紙を媒体とするマスメディア

その他のマスメディア

広義のマスメディアには映画音楽出版全体を含むこともある。

新しいマスメディア

1990年代後半から普及したウェブサイトが既存のマスメディアと肩を並べる影響力を持ちつつある。しかし、従来のマスメディアと呼ばれる概念に含めてよいかどうか議論が分かれている。

取材には資金と組織力が必要なこと、検証可能性の高さなどから、インターネット時代においても新聞社などマスコミ企業の優位性は変わらないという意見がある。また、マスコミ企業は取材中心の通信社的な役割に縮小し、評論や世論形成はブログなど個人のウェブサイトが中心になるという見方もある。インターネット上の市民ジャーナリズムに期待する向きもある。これは一般市民が記者となって取材活動を行うもので、マスコミ企業の欠点の克服・補完を目指している。

この他に、個人とマスコミ企業の中間形態としてミドルメディアも伸びている。

ウェブサイトは僅かの資金で開設でき、政治的に中立性が高い場合も多くある。運営に多額の広告料を受け取る必要がある大手メディアは会社の構造上、中立性・透明性確保が難しいため、大手メディアとウェブサイトの記事差別化が進み、中には急速に読者を増やしているウェブサイトもある。

中小ウェブサイトはその組織力の弱さから、記事の正確性や他社のコピー記事使用の疑問が出されることも多い。しかし、これに対しては、記者クラブで独占取材を許されているマスメディアについては記事の著作権を強く主張できないとの意見も学会などでみられる。

旧来のマスメディア

紙媒体や電波媒体を基盤にしている旧来のマスメディアは既存メディアと呼ばれることが多い。

有用性

  • 社会への影響力が大きい。
  • 検証可能性の高さ。個人レベルでの情報発信は裏付けが十分でない場合が多く、また記事自体が削除などにより無かったことにされる恐れある。しかし、マスメディアは、情報発信側に責任が強く伴うこと、情報の裏付けを取らなければならないこと、記事の保存が行われていることなどから、検証可能性は高い。そのため、ウィキペディアではマスメディアのソースを提示することが推奨されている。

問題点

  • 特に民間メディアの場合、報道において中立性や正確性に欠け、特定の一点を過剰に報道し(または報道せず)、全体を歪曲させてしまう傾向がある。
  • 特に最近であるが、エンターテイメント性があらゆる番組コンテンツに見られる。報道番組であるニュースを含めてこの傾向がある。
  • 一部のバラエティ番組に代表されるような低俗番組有害番組お色気番組の他、擬似科学(占い、健康関連情報など)が挙げられる。『発掘!あるある大事典』のような例もある。これらの番組は事実の正確さよりも視聴率を取ることを重要視しているため、しばしば不正確な事実を包含する。
  • しばしば偽善的な社会的構造と癒着する。国家と結びついた時にはマスメディアの国民への扇情的な報道は時として戦争を引き起こす。ユーゴスラビア紛争マスメディアの戦争責任イラク戦争など。
  • メディアに伝えたことを「公表した」、メディアが行ける場所のことを「公の場」、(主に事件や政治などで)メディアが把握したことを「初めて分かった」などと称し、メディアが国民の代表であるかのような言動をし、メディアが中心にいるかのような立ち居振る舞いをする。そのため、松本サリン事件における河野義行のようにあたかも犯人であるかのような印象で報道してしまったり、「容疑者」「被告」などと独自の言葉を使い、それが一般的であるかのような報道をする(それぞれ「被疑者」「被告人」が正しい。被告とは民事訴訟で訴えられた側のことであり、刑事事件に被告という言葉を用いるのは不適当)。

マスメディア規制

マスメディアは多くの問題点を抱えているため、マスコミ不信に陥る人も多い。

政府は放送法などによりマスメディアを規制している。この中にはマスメディア集中排除原則などがある。メディア規制三法などより強い規制も検討されている。新聞業界は日本新聞協会などが倫理規定を策定している。テレビ業界は放送倫理・番組向上機構(BPO)を作っている。

マスメディアの将来

ボルチモア・サン紙の元記者、デイビッド・サイモンは、所詮、インターネットに出ている情報は、既存メディアが流している情報をコピー&ペーストして、それに対し独自の意見を付け加えたものでしかなく、ネットのブロガーや市民記者は寄生虫のようなものだと指摘している。宿主となる既存メディアは、その寄生虫のため、自らの経営を蝕まれ、次第に一次的な情報を提供する既存メディアが弱体化し、社会に正確な情報が行き渡らなくなるという。サイモンは、そのためにも、既存メディアはネットでの情報発信を有料化するか、NPO化して市民の寄付などで経営を健全化していくべきだと主張している[23]

藤代裕之は、いくら個人メディアが増加しても、まとめサイトやネット上の事件を知らせるミドルメディアの登場が示しているように、人々が何を考えているのか情報を共有するマスメディアのようなメディアはなくならないと主張している。[24]。 しかし既存メディアは双方向ではなく一方的な報道のため、大衆の意見はこうであろうというマスコミの独断に基づく視点であり、必ずしも人々が何を考えているのか情報を共有するものではない。 また、藤代は、マスメディアが凋落してきても、社会の問題を掘り下げ、人々に伝えるという役割の重要性が低下するわけではなく、むしろ、誰もが情報を発信でき、膨大なコンテンツが流通する時代になったからこそ、その人にしか表現できないコンテンツを作れる「プロ」と、重要な情報を選び出す「編集」の重要性が増すとも主張している[25]

脚注

  1. ^ 『広辞苑【マスコミ】』
  2. ^ 1日のメディア接触総時間は、約5時間20分…博報堂 DY が発表”. japan.internet.com. インターネットコム (2008-07-08). 2009-09-23閲覧。
  3. ^ 2008年日本の広告費”. 出版・研究データ. 電通. 2009-09-23閲覧。
  4. ^ 『新聞学』 291頁。(主要放送局については各社決算報告を参照)。
  5. ^ 自殺対策支援センターライフリンク (2006-10-30), “いじめ自殺の報道について改善を求めます”, プレスリリース, http://www.lifelink.or.jp/hp/jisatsuhoudou.html 2009-09-23閲覧。 
  6. ^ 内閣府自殺対策推進室 (2009-11), “平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究(平成21年版 自殺対策白書)”, プレスリリース, http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2009/html/honpen/part3/s3_1_01_sanko.html 2010-03-13閲覧。 
  7. ^ 読売新聞2006年6月3日付記事に新聞特殊指定について断固反対の立場をとった社説が掲載された
  8. ^ [1]新聞宅配制度・見直しにメリットはない 琉球新報2006年3月30日配信記事
  9. ^ 博雅 (2009-06-01). “高齢社会に媚びるマスコミ 経済記事の「災害報道」化”. JBpress. 日本ビジネスプレス. pp. p. 2. 2009-09-23閲覧。
  10. ^ 黒薮哲哉 (2009-08-11). “米国紙記者が語る「つまらない新聞が多量に売れる日本の不思議」”. マイニュース (My News Japan). http://www.mynewsjapan.com/reports/1087 2009-09-23閲覧。 
  11. ^ [2]「新聞は必要」92%…読売世論調査 読売新聞2010年10月14日付記事
  12. ^ 中央調査社 (2008-10-03), “「議員、官僚、大企業、警察等の信頼感」調査(2008/10)” (PDF), プレスリリース, http://www.crs.or.jp/pdf/trust08.pdf 2010-03-06閲覧。 
  13. ^ “官僚、議員、マスコミの「信頼度」は?-中央調査社が世論調査”. 時事通信. (2008-10-03). http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_soc_reliability-survey081003j-01-w290 2008-10-03閲覧。 
  14. ^ “Twitter / 在日米海軍司令部: 駆逐艦が寄港したある地方の記者の方に、「この駆逐艦と ...”. 在日米海軍司令部. (2010-04-28). http://twitter.com/CNFJ/status/12996312015 2010-04-28閲覧。 
  15. ^ “官房機密費の問題にだんまりを決め込む主流メディア”. エコノミスト. (2010-05-22). http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3582 2010-06-04閲覧。 
  16. ^ メディアから広告引き上げ トヨタ奥田氏「報復宣言」の効果J-CASTニュース2006年11月13日
  17. ^ 2008年11月20日の民放連の記者会見
  18. ^ もし一般視聴者がマスメディアを脅す発言や抗議を行っても聞き流されるか無視されるかのどちらかである
  19. ^ “田母神氏“煽動”尖閣大規模デモ…国内メディアが無視したワケ - 政治・社会”. ZAKZAK. (2010-10-04). http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20101004/dms1010041702016-n1.htm 2010-10-04閲覧。 
  20. ^ 佐々木俊尚
  21. ^ 佐々木俊尚
  22. ^ “逮捕されたときは極悪人で、無罪になったらヒーロー扱い”. 西日本新聞. (2010-11-15). http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/273331 2010-11-15閲覧。 
  23. ^ 海形マサシ (2009-09-23). “ネットメディアはどうやったら生き残れるか”. JanJanオムニバス (JANJAN). http://www.news.janjan.jp/media/0909/0909210573/1.php 2009-09-23閲覧。 
  24. ^ 藤代裕之 (2008-07-11). “大量販売モデルにこだわるニュースメディアの落とし穴”. ガ島流ネット社会学 (日本経済新聞). http://it.nikkei.co.jp/internet/column/gatoh.aspx?n=MMIT11000011072008 2008-12-30閲覧。 
  25. ^ 藤代裕之 (2008-12-26). “異例の引き抜き人事にみる大新聞の危機感”. ガ島流ネット社会学 (日本経済新聞). http://it.nikkei.co.jp/internet/column/gatoh.aspx?n=MMIT11000025122008 2008-12-30閲覧。 

参考文献

関連項目