仮想敵国
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
仮想敵国(かそうてきこく、英: hypothetical enemy)は、軍事戦略・作戦用兵計画を作成するうえにおいて、軍事的な衝突が発生すると想定される国をいう。
一部には仮想敵国イコール敵国との誤解も存在するが、必ずしも敵国となるという意味ではなくあくまでも想定である。旧日本軍では「想定敵国」、自衛隊用語では「対象国」と呼ぶ。
目次 |
概説
仮想敵国はある国が国防方針、軍事戦略、作戦用兵計画などを立案する際に軍事的な衝突が発生して対立すると想定される国のことである。実際的な軍事力造成の計画を立案する上である程度具体的な仮想敵国を設定することが必要である。
仮想敵国には以下の3種類に分類できる。
意義
国防計画を策定する際には、兵員数・装備量・各種物資量などが具体的にいくら必要になるかという想定が必要になる。そのため仮想敵国を想定してオペレーションズ・リサーチなどを行う必要がある。無論、現実性を持たせるために多くの場合には隣国もしくは利害が対立する可能性のある国を対象として設定される。
歴史的事例
アメリカ合衆国は友好国に対しても、政変などにより敵国となった場合(カダフィ大佐によるクーデター後のリビアや、イラン革命後のイランなどの前例がある)を想定して国防計画を立てているといわれている。たとえば2つの世界大戦の間には日本が仮想敵国となっていることは有名であったが(オレンジ計画)、同時にドイツばかりかイギリスまでも仮想敵国にしていたという(レッド計画)。それに対する日本海軍もアメリカとの軍艦同士による決戦を想定して軍艦を建造していたが、実際の戦争は航空機中心の機動部隊が活躍する戦いになったため、想定とは異なったものとなった。
フランスは第一次世界大戦の教訓から、対ドイツの国防指針として塹壕戦の消耗を回避するためマジノ線を構築した。総工費約160億フラン、維持・補強費に140億フランを投入してフランス・ドイツ国境一帯に建設された要塞線は、外交的な配慮からベルギー国境付近から大西洋にかけて要塞(点)陣地にされたため、ドイツ軍の機動車両によるアルデンヌ奇襲とベルギー経由での侵攻に対処できなかった。また膨大な国費をマジノ線構築に充当したため、兵器の近代化に遅れる結果となった。
大日本帝国は日露戦争まではロシアが仮想敵国であったが、1907年の帝国国防方針において、ロシア、アメリカ、ドイツ、フランスの順序に仮想敵国と設定された。1931年の満州事変以降、ソビエト連邦との武力衝突の可能性からシベリアの極寒地に耐えられる装備を整えていたが、その後日中戦争の泥沼化と経済制裁の結果、戦争遂行に不可欠な石油資源を確保するために南方攻略に切り替えたためソ連を仮想敵国とした装備は無駄になった。
また自衛隊は冷戦時代ソ連からの軍事的脅威が存在していたため、防衛計画では侵攻が予想される北海道を重点的に部隊配置を行っていた。これは「北方重視」と呼ばれ、北海道での運用を念頭において開発されたという90式戦車などが良い例である。
現代的事例
日本は近年、崩壊したソ連に代わって、巡航ミサイルや核開発などで日本・韓国・アメリカに対する恫喝を繰り返している朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)と、海軍力を急速に増強し外洋艦隊の建設に乗り出している中華人民共和国(以下「中国」)を主な仮想敵国としている。陸上自衛隊の西方への移転はあまり進んでいないが、日本海沿岸や南西諸島などへの武力侵攻の可能性があるとして演習を行っている。ただし、ソ連の後継国家であるロシアとの対立構造も消えたわけではなく、“北の脅威”である点は依然として変わらない。
韓国は日本とはアメリカを介した間接的な同盟国である。しかし、韓国海軍がすすめている「大洋艦隊」を日韓間で懸案となっている竹島領有権問題と絡めて、日本との有事の際に日本のシーレーンを封じ込めることを念頭に置いた政策と見る軍事専門家がおり、それに対する海上自衛隊も韓国を仮想敵国として研究しているのではないかとする推測もある。また、駐米韓国大使は否定したが、2005年の米韓定例安全保障協議会にて、韓国政府が米国政府へ日本を仮想敵国と表現するように要請していたことが伝えられている[1]。
しかし、日本と韓国は中国と北朝鮮という共通の脅威に晒されている点で利害が一致していることもあり、2010年の第2延坪海戦の後、日本と韓国は軍事的に急速に接近。物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向け動き出している[2]。
問題点
仮想敵国に対する脅威や想定が政治的に一人歩きし、外交・政治的な混乱や現実の軍事的緊張を招く可能性がある。自衛隊の防衛予算に関する国会審議で「冷戦が終了した今、日本を攻める国がどこにあるのか」と詰問して政府与党の失言を誘い、あるいは予算を削減させようとするのはかつて左派系野党の常套手段であった。また韓国が日本を仮想敵国としていると報道されたことは日本の対韓感情に影響を与えた。
仮想敵国は本来、用兵のための純軍事的な想定であり、政治や外交上の敵対や国交の断絶をかならずしも前提としていない[3]。友好的な隣国や同盟国であっても、軍事担当者は軍備予算の算出や配備計画立案の必要に応じて敵国想定をおこなうことがある。これら機密情報が作為的に漏洩されることで、予期しない政治的混乱や外交的緊張をうむ可能性がある。
実際に、中国人民解放軍系のマスメディアが発行する『国防時報』は、アメリカ空軍が沖縄に派遣したF-22戦闘機を「中国に対する脅威」として、むしろ人民解放軍の軍事力強化を正当化する根拠としており、現実の軍事的対決で仮想敵国の想定が使われないようにするために、配備状況・予算執行状況などの積極的な情報公開や、軍事担当者・武官同士の国際交流など政治的な対応も有効である。
脚注
- ^ 「韓国、米政府に日本を仮想敵国と表現するよう要請」2006年10月18日朝鮮日報
- ^ 物品提供協定を協議へ=日韓防衛相が合意2011年1月18日 時事通信
- ^ 現に、アメリカ国防総省は日本を仮想敵国とみなしている。これは「短期間で核兵器またはそれの代替足り得る大量破壊兵器の製造・実戦配備の技術的可能性がある」為である。
関連項目
- カラーコード戦争計画 - アメリカ陸軍が1920年代に立てた、仮想敵国に対する国防計画。
- 帝国国防方針
- アグレッサー部隊
| ファイル:Tank template.svg | この「仮想敵国」は、軍事に関連した書きかけ項目です。この項目を加筆・訂正等して下さる協力者を求めています。 (ポータル:軍事/PJ軍事/PJ軍事史) |




