軽空母
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軽空母(けいくうぼ、Light aircraft carrier)は、正規空母と比較し、小型の航空母艦の事。歴史的には大型の正規空母に比べて小型で搭載する航空機も少なく、装甲など防御能力も低い空母を指した。ただし速力は正規空母と同等、あるいは準ずることで低速の護衛空母とは区別される。当時、高速力を発揮し艦隊行動に追随しうる空母は、艦の規模、搭載機数に関わらず艦隊空母(Fleet Aircraft Carrier )と分類されていた。現代では主に短距離離着陸機(STOVL機)を運用する航空母艦のことを指す。
軽空母とヘリ空母は元来別の艦種である。ヘリ空母を広義の軽空母に含める文献もあるが、ヘリコプターとSTOVL機の運用においては支援設備が異なるため、STOVL空母をヘリ空母として運用することはできても、ヘリ空母をSTOVL空母として運用するには困難が存在する。
手前から軽空母プリンシペ・デ・アストゥリアス(R-11), 強襲揚陸艦ワスプ(LHD-1), 正規空母フォレスタル(CV-59), 軽空母インヴィンシブル(R-05)
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軽空母の定義の変遷
水上機から発達した航空母艦において、排水量、搭載機、速力、防御が劣位にあるものを、より大型のそれと比較して軽空母と呼ばれたことに端を発する。空母の黎明期において実験艦的性格をもった日米英の「鳳翔」、「ラングレー」、「ハーミーズ 」は1万トン前後の排水量とワシントン海軍軍縮条約によって空母への転用を認められた「赤城」、「レキシントン」と比較して小型であったが、この時点では軽空母という概念はない。第二次世界大戦の勃発まで、海軍国の空母建造は、条約で割り当てられた排水量の範囲内でどう割り振るのかという部分に終始するため、比較的小型、比較的大型、あるいはその間をとった設計だから中型、というあいまいな定義しかなく、艦隊と行動する前提で設計されたのであれば防御が弱くても、速力が30ノットを割っても、あるいは雷撃機のための航空魚雷の調整・運用ができないものであっても単に空母として遇されていた。
軍縮条約が終わり、第二次大戦が始まると空母戦力の大拡張が行われるが、このときに建造に時間と費用がかかる正規空母と並行して計画されたのが護衛空母と軽空母である。護衛空母が、船団護衛を主眼としたのに対し、軽空母は艦隊戦力の補助を意図していた。護衛空母より高性能であるが、艦隊空母よりも安価、あるいは建造期間が短いことが求められた。日本の「祥鳳」、「瑞鳳」、「龍鳳」、「千歳」、「千代田」、「伊吹」、鳳翔、龍驤、「生駒」。アメリカのインディペンデンス級、サイパン級。イギリスのコロッサス級、セントー級が当時の軽空母に分類される。伊独ソも計画は存在したが、着工さえされず戦局に寄与することはなかった。
大型高価な正規空母の補助としてそれなりの数が計画、建造された軽空母であるが、第二次大戦の終結後は急速建造という最大の利点が無くなり、また肝心の搭載機そのものがジェット化とともに急速に大型化、大重量化したことから第一線機の運用能力を失い、対潜任務や強襲揚陸艦に転向したものの他は、ほとんどが70年代までに退役することとなった。
洋上で航空戦力を展開するには、大型高価な正規空母とその固定翼艦載機に頼るしかない状況にあったが、その費用負担に耐えかねたイギリスはこれを全廃する措置を採った。しかし全通甲板型対潜巡洋艦とSTOVL機ハリアー、そしてスキージャンプ台を組み合わせることで限定的ながら、比較的安価に洋上航空戦力を整える方策を編み出すことになる。インヴィンシブル級とそれに先立つ各種実験を担当した「ハーミーズ (2代目)」はフォークランド紛争で実績をあげ、これが有効であることを示す。以後、イタリアがこれに続き、またアメリカも洋上防空とは別のアプローチ、すなわち強襲揚陸を行う海兵隊への近接航空支援のため、強襲揚陸艦とハリアーの組み合わせを採用する。
アメリカ海軍もまた大型空母の運用費用に苦慮していたことから「安価で柔軟性に富んだ航空機運用プラットフォーム」としてのSCS(Sea Control Ship)を研究するものの、アメリカ海軍の複雑な要求を満たすことができず頓挫する。しかしこの研究はイギリスに先立ちハリアーの艦上運用を開始したスペインにおいて結実することとなる。
現在の軽空母とは、カタパルトや着艦拘束装置、あるいはそれを配置するに足る広大な飛行甲板面積を必要としない、搭載機にハリアーを採用した空母、と言い換えることもできる。軽空母がハリアー空母とも呼ばれる所以でもある。冷戦崩壊によってソ連のYak-38がキエフ級とともに運用を停止して以降、STOVLが可能な固定翼艦載機はハリアーのみであり、F-35のSTOVL型であるF-35Bが配備されるまでは、軽空母イコール搭載機はハリアーという状況が続く。
F-35Bの搭載を前提としたより大型のSTOVL空母あるいは強襲揚陸艦は、排水量が3万トンに達する。またこれに先立つ1960年代において、当時のソビエトで排水量5万トンの空母を「軽防空空母」と呼称し、またYak38を搭載したキエフ級は4万トンを超えていた。また専門誌において5万5,000トンの「アドミラル・クズネツォフ」が、艦載機の発艦重量に制限を受けるSTOBARの採用を理由とした運用能力の限界から軽空母と解説されたこともあり、さらには輸送、揚陸などの複合任務に供される艦もあることから、軽空母という語に関して、現代においては各国共通の定義は存在していないと言える。
2016年にはイギリス海軍のクイーン・エリザベス級が就役予定であるが、クイーン・エリザベス級はフランスの正規空母よりも遥かに大型の艦型であるにもかかわらず艦載機としてF-35B STOVL機を運用する予定であったことから軽空母の定義が揺らぐ事になるであろうと当初考えられてもいた。しかし2011年末現在F-35Bの開発が難航しイギリス空海軍がF-35Cの取得に方針を変更、「クイーン・エリザベス」は一切の固定翼機を持たないヘリ空母として就役することが確実となった。一方2番艦の「プリンス・オブ・ウェールズ」には新開発の強力な電磁式カタパルトを装備してCTOL機であるF-35Cを運用する正規空母となる計画に変更されたことで、クイーン・エリザベス級はいずれにしても軽空母ではなくなることとなった。
なお 保有国から正式に「軽空母」(CVL)と分類されたのはアメリカのインディペンデンス級とサイパン級のみ(CVLとしての就役期間は1943年~1956年)である。
歴史
軽空母の始まり
第一次世界大戦において、飛行機が重要な兵器となった。大戦中イギリス海軍は、海上で運用できる水上機を戦力として使用した。水上機は広大な海面から離着陸できる反面、艦船からの積み下ろしに手間がかかる上、大きなフロートによる飛行性能低下は軍用機として大きな問題であった。大戦後、日米英の大海軍国ではフロートを持たない通常の航空機を運用できる軍艦すなわち航空母艦の建造に着手した。
最初の空母は1万トン程度の小型であったが、すぐに大型化していった。その後 航空母艦の建造はワシントン海軍軍縮条約の制限を受け、各国が建造できる空母の総量に規制がはめられた。制限内で最大限の空母戦力を保有するために小型の空母が建造された。当時の小型空母の代表例として日本の龍驤がある。龍驤は当時の正規空母の半分の大きさ(排水量1万トン)で30機以上の航空機を運用し約30ノットの速力であった。
第二次世界大戦の軽空母
第二次世界大戦では航空母艦が海戦の主役となった。日米英は大型の正規空母を建造すると同時に、低予算かつ短期間で造れる小型の航空母艦(軽空母)の建造にも注力した。
アメリカ海軍は建造中の巡洋艦の艦体を流用してインディペンデンス級9隻とサイパン級2隻を建造し、通常の空母(CV)とは別の『軽空母』(CVL)に分類した。日本海軍は水上機母艦として建造した千歳型水上機母艦を改装した千歳型航空母艦を2隻、高速給油艦を改装した祥鳳型航空母艦を2隻、潜水母艦を改装した龍鳳型航空母艦を1隻投入した他、数隻の建造または改装計画を持っていた。イギリス海軍はやや低速(25ノット)のコロッサス級7隻などを建造した。いずれも排水量1万トン台で当時の正規空母の半分程度の大きさであったが、正規空母に伍して活躍した。
戦後の軽空母
第二次大戦後、米英以外の国も海上航空戦力強化のために航空母艦を保有した。その際に採用されたのが、大戦中に建造・計画されたイギリス海軍とアメリカ海軍の軽空母であった。イギリスの空母を購入した国は、フランス、オランダ、カナダ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、インドの7カ国であり、アメリカ海軍の空母はフランスとスペインで使用された。その後フランスは正規空母を自国で建造した。インドは現在もイギリスで建造された軽空母ヴィラート(旧ハーミーズ)を保有している。
ソ連では1975年、大型の軽空母キエフ級[1]を建造した。キエフ級は、ミサイル巡洋艦の性格が強く、搭載したV/STOL機(フォージャー)の能力も低かったこともあり、その後は大型空母の建造に移行した。[2]
1980年に完成したイギリス海軍のインヴィンシブル級[3]は、最初全通甲板型巡洋艦として設計されていたが、ヘリコプターとV/STOL機(シーハリアー)合わせて21機の運用が可能な現代的な意味での軽空母であり、以後の西側諸国で建造される軽空母の方向性を決定付けた。
現在の軽空母
現在就役中のハリアーを艦載機とする(過去にしていた)軽空母には、以下のものがある。
ファイル:Naval Ensign of the United Kingdom.svg イギリス海軍
- イラストリアス(ただしイギリス軍でハリアーは運用終了済み)
ファイル:Naval Ensign of Italy.svg イタリア海軍
ファイル:Naval Ensign of Thailand.svg タイ王国海軍
その他に、軽空母ではないがアメリカ海兵隊の強襲揚陸艦がハリアー IIを運用している。欧州諸国のいわゆる軽空母より大型で、強襲揚陸作戦のための兵員と装備を搭載している。
ハリアー以外の固定翼艦載機を運用する空母には、二つの種類がある。ひとつはカタパルトで発艦し、着艦拘束装置を利用するCATOBAR(Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery)方式であり、この形式の空母を正規空母と呼ぶことがある。
そしてもうひとつが、スキージャンプ台などを用いた短距離離陸と着艦拘束装置を組み合わせたSTOBAR(Short Take Off But Arrested Recovery)方式であり、これも軽空母に含める場合がある。
ファイル:Naval Ensign of Russia.svg ロシア海軍
今後、STOBAR方式の採用国としてインド海軍と中国海軍が加わるものとみられている。
海上自衛隊の軽空母
詳細は「海上自衛隊の航空母艦建造構想」を参照
その艦形から、軽空母と称されることもあるが、VTOL機の運用は想定されていない。
日本の海上自衛隊は、1952年の海上警備隊設立から2007年現在まで、固定翼艦載機の運用能力を持つ艦艇を保有していない。
2009年就役のひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦(通称16DDH)が、STOVL機の運用も可能な軽空母ではないかと議論されることがある。ただし、現状ではヘリコプター以外の航空機の搭載は予定されておらず、またSTOVL機の運用が可能であるという発表もされていない。[8]
また、1998年に竣工したおおすみ型輸送艦については、全通甲板をそなえた大型艦であったため、当初は空母のようだと話題となった。しかし、自衛隊の位置づけとしても大型輸送艦であり、簡単な点検と燃料補給以外はヘリ整備能力を持たないため能力的に見てもヘリ空母と言うには無理があり、諸外国でいうヘリ発着艦能力を持つドック型揚陸艦でしかない。この程度の設備ではフォークランド紛争で活躍したイギリス軽空母と比較できるものではない。
脚注
- ^ 改型のアドミラル・ゴルシコフを含めて4隻建造、満載排水量36,000t、ヘリコプターとV/STOL機約30機搭載
- ^ なお、ソ連海軍はキエフ級に「航空巡洋艦(重航空巡洋艦)」という名称を与えていたが、その理由は、空母のボスポラス海峡通過を禁じたモントルー条約を回避するためであり、空母であっても「巡洋艦」とみなすことで通過を可能とするためである。
- ^ 満載排水量20,600t
- ^ 1985年、満載排水量13,850t、航空機16~18機
- ^ 2008年、満載排水量27,100t、航空機18~20機
- ^ 1988年、満載排水量17,200t、航空機27機
- ^ 1997年、満載排水量11,500t、航空機12~14機
- ^ 雑誌『軍事研究』では、甲板表面がジェットエンジンからの高温排気に対応していないため、STOVL機『ハリアーII』の運用はできないとしている
参考文献
- 福井静夫『世界空母物語』 光人社 1993年
- 世界の艦船 別冊「世界の空母ハンドブック」 海人社 1997年
- 世界の艦船 2002年9月号「世界の空母 2002」海人社
- 世界の艦船 2007年11月号「特集・現代の軽空母」海人社
- 柿谷哲也「世界の空母」イカロス出版 2005年
関連項目
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