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鉄道撮影

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

鉄道撮影(てつどうさつえい)とは鉄道を主題とした写真或いは動画撮影である。列車を専門にしている人は列車撮影とも呼ぶ。

目次

概要

鉄道とほぼ時を同じくしてカメラ発明されたこともあり、鉄道趣味としては最も古くから行われてきた基本的な形態の一つである。また、それをメインとして楽しむ鉄道ファンのことを、近年は撮り鉄(とりてつ)とも呼ぶ。日本においては、明治時代に撮影された「岩崎・渡邊コレクション」が、当時の鉄道を克明に記録した貴重な資料として伝わっており、昭和初期に創刊された鉄道趣味雑誌も、写真撮影に主眼を置いていた。さらに、趣味から進んで、鉄道写真の撮影を専門とするプロ写真家である鉄道写真家も存在する。また被写体として鉄道を加えるという新規参入組も多い。

撮影対象は、鉄道車両、構造物(駅舎や橋梁等)などから、鉄道関係者、利用者などの人物にまで多岐に及ぶこともある。撮影の目的、手法も多種多様であり、記録として列車や鉄道車両を撮影する「記録写真派」から、列車を中心とした風景を芸術写真として撮り、雑誌やコンテスト等に投稿する「芸術写真派」、廃線跡などを探訪して写真を撮るという分野もある。また、鉄道撮影画像を専門に扱う電子掲示板や閲覧者参加型の鉄道情報サイトや動画投稿サイトもあり、デジタルカメラ画像ファイルや、フィルムイメージスキャナでデジタル化した自己の撮影画像を投稿・公開して楽しむ者も存在する。

鉄道車両を撮る者でも人によって好みが分かれており、新旧問わず臨時列車など運行機会の少ない車両・列車や少数形式の車両、試作車・改造車などの異端車を好む者や、日本国有鉄道時代に設計・製造された「国鉄型車両」を好む者、特定の路線を好む者、蒸気機関車を好む者、私鉄を好む者など多岐にわたる。臨時列車などの珍しい(貴重な)列車は「ネタ」と呼ばれ、それを撮る者を「ネタ鉄」と呼ぶこともある。この様な「ネタ鉄」にとっては臨時列車のダイヤグラムを詳細に載せている交通新聞社の雑誌『鉄道ダイヤ情報』は必携の存在となっている。

記録として写真撮影をする者であっても、列車を撮影する「列車写真派」、列車ではなく個々の車両の記録を主眼とする「形式写真派」、さらに車両模型制作のため、車両の細部を撮影する「ディテール写真派」、シーナリーセクションやレイアウト製作のため、建造物を撮影する「ストラクチャー派」や、地形を撮影する「シーナリー派」など、様々である。

カメラやレンズなど撮影機材についても人によって好みが細かく分かれる。特にキヤノン製のカメラ類を用いる愛好者を「鉄観音」と呼ぶ場合がある。 語源は、鉄道愛好家から「鉄」、キヤノンの由来である「観音菩薩」を合わせて、中国茶の鉄観音茶とかけている。

撮影対象は旅客列車機関車を中心に、貨物列車や工事用などの事業用車両まで多種多様である。貨物列車の撮影を狙う者の中には、本来は荷主向けに刊行されている社団法人鉄道貨物協会発行『貨物時刻表』を写真撮影の為だけに購入する者も存在する。

撮影手法

以前は写真撮影を趣味に置く人はフィルム式の一眼レフカメラが代表的であったが、デジタルカメラの普及も進んでいる。動画撮影にはビデオカメラを使用する。

ファイル:Meitetsu 1000 Series EMU 037.JPG
流し撮りの例
シャッタースピード 1/100

列車の撮影ではのホームで撮影する(駅撮り)他に、線路端(走行写真)や山の上(俯瞰)から撮影することもある。走行写真では、高速で走行する被写体をぶれることなく、先頭車両の正面に焦点を合わせるテクニックが要求される。あるいは、比較的遅めのシャッタースピードで車両を横方向から捉え、車両の動きに合わせてカメラを動かして車両の周囲の風景をぶれさせる流し撮りというテクニックもある。

芸術写真を撮る場合は鉄道車両ではなく、人物や植物など他の被写体に焦点を合わせることもある。また、風景を主体とした写真を撮る場合、通常の風景写真と異なり、シャッター速度を優先して撮影することが多い。

マルイ
駅のそばで撮影した写真をこう呼ぶ場合がある(チェーンストア丸井の店舗は駅の近くにあることから)。
コーサイカイ
マルイに対し、改札を出ることすらせず、駅の構内のみで撮影を済ませること。由来は駅構内に店舗を持つ鉄道弘済会から。切符代や歩く労力を惜しむ様から、マルイと共に揶揄として、あるいは自虐的に用いられる隠語
追っかけ
ローカル線や蒸気機関車など運転速度が遅く、比較的長距離を走る列車を乗用車バイク(中には新幹線を使う者もいる)で追いかけて、同じ列車を何度も撮る撮影手法。イベント列車運転時には多くのファンが一つの列車を求めて一斉に移動するため、一時的に道路が渋滞することも多い。しかし、中には自らの生命を省みずに法外な速度で運転したり、信号無視、追い越し禁止区間での追い越しをするなど道路交通法上の違反行為をするファンもいる[要出典]

撮影に使用する道具

カメラ
撮影派にとっては必須道具。シャッター速度を調整したり、広角から望遠まで使用するため、一眼レフカメラを使うことが多い。中には、移動中などで変わった列車を見かけたときの記録としてコンパクトタイプのカメラや携帯電話に内蔵されているカメラを使うこともある。2000年代に入ってからはデジタル一眼レフカメラの普及に伴って、これを使うものも多く、記録写真派としては枚数をあまり気にせずに使えることや悪条件に強いという利点から広く愛用されつつある。逆に、フィルムにこだわる者も未だに多く(とりわけ芸術写真派に多い)、中には写りの綺麗さを重視して中判カメラを使う者も見られる。イベント列車など、失敗が許されない撮影では、リスク分散のため複数のカメラを使用する者も多い。
三脚
これも撮影派にとっては必須ともいえる道具である。夜間撮影のほか、望遠レンズや複数のカメラを使用する場合に用いられる。ただし最近では手ブレ補正機能の付いたカメラが一般的になってきているので、写真の撮影に関しては必要ない。また、脚立と併用して使うものも多い。三脚はこのほかに、イベント列車運転時の撮影場所確保用に使われることも多いが、これは他の鉄道ファンや地元民にとっては迷惑行為であり、兵庫県美方郡香住町山陰本線余部橋梁ではイベント列車運転時に土地を管理する側が三脚を撤去したという事例もある。三脚以外にも脚立ロープ、ビニールシートで場所取りをする者も多いが、これも避けるべき行為である。また、駅などでは三脚の使用を禁止しているところもごく一部にあるため、使用には注意が必要である。
その他
カメラなどといった撮影機材を入れるのに、「銀箱」と呼ばれるアルミケースやリュックサックなどを使う。前者は頑丈な作りになっているので、雨や雪に強いことや、椅子や踏み台の代わりにも使用できるといった長所があるが、その反面、ケース自体が重いという短所がある。後者は俯瞰撮影をするために山道を登ったり、公共交通機関を利用して移動するのには便利であるが、銀箱のように椅子や踏み台代わりにはできない。銀箱にはファンから人気があるとされる機関車のプレートや北海道の土産店でよく販売されている「出没注意」のシールなど、さまざまなシールやプレートを貼付する者も多い。

仲間の輪を広げる鉄道趣味者

著名な撮影ポイントでは、列車通過時刻ともなると数十人が集まることもしばしばである。何時間も待つこともあり、鉄道を趣味とする人同士であれば、共通の趣味をもつものとして初めて出会った人でも打ち解けあい、大きな仲間となることもあり、それまでの時間は重要なものだ。そうして最高のカメラの場所は1点であるにもかかわらず、譲り合いの精神で和気藹々と撮影する。このように撮影場所で偶然出会った人とは、一生の付き合いとなることも珍しくない。ただし、例外もある。

トラブル

ファイル:Tori-tetsu 20051218.JPG
撮影地で目的の列車を待つ鉄道ファンたち
ファイル:撮り鉄によって破られたネットフェンスの修理後の状態.JPG
撮影者の中には夢中になるあまりフェンスを破壊してまでカメラレンズを入れてしまう者も。画像は補修後の状態。

鉄道撮影は古くから存在し趣味として発展を遂げてきた一方で、一部の悪質なマニアの行動により様々なトラブルが繰り返し発生していることも鉄道撮影趣味における現実である。

特に臨時で蒸気機関車や配給列車など注目される列車・車両の運行が設定された際に、その撮影を目的として沿線を訪れる者が通常時の数倍からそれ以上に膨れ上がり、それ故、撮影場所の場所取りを巡って撮影者同士でトラブルが発生することがある。また、私有地や線路敷地内などの立入の許されていない場所に入るなどして沿線の住民から苦情が続出したり、線路に侵入して鉄道の運行を妨害することがあるほか、駅構内などでの三脚を使用しての撮影や(乗車位置を塞ぐ)、一般利用客や駅員に対して怒声を浴びせたり暴力を振るうなど素行の悪い人物が目立つ傾向があり、本来は列車の取材に訪れていたマスコミがむしろこちらを取材・撮影してトラブルとして、たとえばニュース番組の特集記事などの形で大きく取り上げる場合もある。

イベント列車以外の日常的に運行されている列車の撮影でのトラブルの発生は比較的少ない傾向にあるが、ダイヤ改正に伴って列車や車両の改廃がある際、また路線の廃止・縮小の際には、鉄道撮影趣味者以外にもいわゆる「葬式鉄」と呼ばれるタイプの鉄道趣味者も入り混じってトラブルになること見られる。

鉄道撮影を目的とする者が列車の運行妨害を引き起こした事例も少なくない。2010年2月には、ジョイフルトレイン「あすか」の撮影を目的にファンが鉄道敷地内に侵入し撮影していたことが原因となり、安全確保のために多数の列車が運休になるなど多大な影響を出したため、西日本旅客鉄道(JR西日本)が警察に被害届を提出する事態に発展した。その後、短期間で500系新幹線東海道新幹線撤退、寝台特急「北陸」・夜行急行「能登」の廃止(臨時化)など、イベントが連続したことから、テレビ・新聞で『「撮り鉄」警報』などと、撮影のマナー違反を重視した内容でこれらが大々的に報道されるなど、マスコミが鉄道撮影にまつわるトラブルを問題視する報道を繰り広げる事態となった。また、鉄道撮影をしている者が、民家が立ち並ぶ場所や河原などで不審者扱いを受けたり、後述の様に崖などの危険な箇所に撮影者が侵入し挙句に事故を起こすという事例も発生している。

なお、この鉄道撮影趣味者のマナー問題は、過去にも1976年に発生した京阪100年号事故で、児童に死者を出したことから都市周辺での保存運行を国鉄が断念し、地方線区での恒久的実施に方針を切り替えざるを得なくなるという事態にまで発展している(1979年より「やまぐち」として実施)。その後も1984年に、鉄道事故の光景や事故発生時に出動する救援車と事故復旧作業の撮影などを企んだ鉄道マニア3名が、小浜線内で急行「わかさ」を脱線させるなど、福知山鉄道管理局管内だけでも25件の列車妨害事件を引き起こし逮捕されるという事件を起こしている[1]

21世紀初頭の現在でも、蒸気機関車の運転などの際に見物に来た地元の住民とトラブルを引き起こすことが往々に見られる。

また、鉄道撮影に夢中になるがあまりに事故を引き起こすことがあり、時には重大な死亡事故に繋がることもある。上述した京阪100年号事故以外でも2008年11月29日には東海道本線寝台特急富士はやぶさの撮影中に倒れた三脚を起こそうとして線路内に立ち入った人物が、列車と接触して死亡する事故が起きたほか、2010年5月6日には上越線でSL列車の撮影に向かったまま行方不明となっていた人物が、捜索の末に崖から転落死していたのが発見されたという事故も起きている[1]

対策

鉄道写真撮影時における現地での行動や撮影場所の決定は、基本的には本人のモラルと良識、そして自己責任に委ねられている。とはいえ、上述した様なゆゆしき事態の発生に対して、地元や鉄道会社側としても注意看板を立てるなど現地で対策を行う様になっている。かつて、2006年には東日本旅客鉄道(JR東日本)新潟支社が異例ともいえる鉄道ファンへの注意喚起の案内を公式ホームページ上で2度にわたり公開したことがある。

間近での見物目的や良い写真欲しさに周囲との混乱を引き起こす一部鉄道趣味者のモラルの欠如した行動は、先に述べた通り不法侵入を受けた地主や沿線住民から鉄道会社への苦情の原因にもなり、鉄道会社にとっては、警備会社に沿線への警備員の巡回や待機を依頼するなど、本来ならば必要の無い経済的負担を強いられることも少なくない。また、特にお召し列車国賓が乗車する特別列車などの場合には、モラルの欠如した一部の鉄道撮影趣味者の存在とこれらが沿線で引き起こすトラブルや混乱は、テロ行為の防止という安全・保安・警備の観点からも問題となる。このことから、特定の列車の運行に際して沿線に鉄道会社・警察・警備会社の要員が動員され、列車写真撮影に対しても場所の制限が行われたり、撮影の名所とされるポイントが「警備上の都合」という理由で封鎖されることも少なくない[2]

たとえ撮影が目的であっても列車の安全運行を妨害し運行計画を妨げる結果に至った場合には、鉄道事業者から(多額の)損害賠償を請求されるほか、警察からは列車往来危険の容疑に問われ捜査や処罰の対象となる事態も起きうる。特に新幹線の運行を妨害した場合には列車往来危険よりも厳罰である新幹線特例法違反の容疑に問われることになる。また、その後のイベントや当該の車両の運行予定が縮小または中止され、撮影行為にも制限が及び、マスコミや鉄道ファンの厳しい批判という社会的制裁も受けるということを肝に銘ずる必要がある。

いずれにしても、列車の撮影中のトラブルや事故の発生は、後述の通り有名撮影地での撮影が禁止になるなど、結局は鉄道撮影の趣味者が自分たちの首を自分たちで絞める行為であり、問題に関わっていない鉄道ファンたちにもやがてその迷惑は波及してゆく。

「撮影名所」の消滅

現在では、雑誌・インターネットサイト・ブログ等で過去に撮影された写真について、その撮影地点について「かつての撮影名所」であると説明して、「現在はその位置での撮影はできない」「撮影自体は可能だがこの様な写真はもはや撮れない」などの旨を併せて紹介していることが往々に見られる。

これについては、建物や柵などの構造物の設置や防災対策による線路際の構造物の追加による風景の変化や、山間部などでは樹木の繁茂や植林など、撮影に対する阻害要因の増加が原因となることも多いが、その一方で撮影ポイントについて土地の所有者や沿線の住民・農家などと鉄道撮影趣味者の間でトラブルが起きその後立ち入りが制限されたことや、土地の所有者や鉄道会社が撮影者の侵入や無謀な撮影を不可能にするべく大型の安全フェンスの設置など何らかの対処を行い、これにより撮影ポイントに到達できなくなったり良好なアングルでの車両撮影が不可能になったことによるものも見られる(例:東海道本線サントリーカーブ[3]北陸本線鳩原ループ)。

フラッシュ撮影の問題

夜間や光量が不足している場合に、運行中の車両を近距離や正面などから直接フラッシュを焚いて撮影することは、運転士の目に残像が残り、信号や計器類の視認に支障を来たし、ひいては定時運行を阻害しかねない要因になる。そのため、特に夕暮れ時から夜間・夜明け前のフラッシュ撮影は安全運行のために行ってはならない禁忌とされ、しばし乗務員などから注意されることもある[4]。また、フラッシュ機能をオフにする機能が付いていない主にローエンド帯のデジタルカメラの使用者や、フラッシュの切り方を知らない撮影者がフラッシュ撮影してしまうこともあり、駅の構内放送で駅員に注意されたり、鉄道ファンの間で罵声が飛び交う光景も多々見られる。

なお、夜間の鉄道撮影では、フラッシュの設定はオフにし、絞りを開く(F値を小さい数値にする)、ISO感度の高いフィルムを使用する(デジタルカメラで任意の感度を設定できる場合は高い数値にする)、三脚を使用する(ただし混雑している場所では使用しない)など、基本とされるカメラの技術・設定・マナーが存在する。

脚注

  1. ^ SLファン滑落か…がけ下に男性遺体[リンク切れ] - 読売新聞(2010年5月9日閲覧)
  2. ^ ちなみに、戦後日本では極左武装集団が昭和天皇の謀殺を謀り、お召し列車を標的に橋梁を爆破しようと企てたことがある(虹作戦を参照)。
  3. ^ 「サントリーカーブ」にフェンス 惜しむ鉄道ファン - 朝日新聞社 2008年10月7日
  4. ^ 鉄オタまた“脱線”オレンジ電車引退でやりたい放題… - ZAKZAK(2010年10月15日閲覧)